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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)4612号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人森長英三郎の上告趣意第一点について。

所論は、原審の認定していない心神喪失を前提として判例違反を主張するのであるが、かかる主張は、被告人も弁護人も原審において控訴趣意として主張した形跡なく、かつ原審は、控訴趣意のうち事実誤認の主張を理由なきものとし、単に量刑重きに過ぎるという主張を採用し、破棄自判したに過ぎない。このように原審において主張しその判断を受けることができた事項について、これをしないで上告審ではじめて主張することは、原審が第一審判決を破棄した場合でも、許されないと解すべきであって、結局所論は適法な上告理由と認めることはできない。

同第二点について。

所論は、本被告人には科刑すること自体が違憲であるという趣旨に帰するが、このような主張は、原審が破棄自判の理由とした単に量刑重きに過ぎるという控訴趣意と相容れず、適法な上告理由といえない。のみならず、憲法二五条二項の法意は、その一項の国家は国民一般に対して概括的に健康で文化的な最低限度の生活を営ましめる責務を負担し、これを国政上の任務とすべきであるという趣旨と対応し、国家はこれらの目的のために積極的に社会的施設の拡充増強に努力すべきことを国家の任務の一つとして宣言したに止まり、国民各個人に対し具体的現実的にかかる権利を有することを認めた趣旨でないことは、すでに当裁判所大法廷判決の趣旨に徴し明らかなところである。(昭和二三年(れ)第二〇号同年九月二九日判決、集二巻一〇号一二三五頁参照)従って所論は採用できない。

その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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